1.原価の中身を見てみよう
原価とは「売上を得るための手段に対する対価」です。逆に言えば、利益を確保できるのなら、いくらコストがかかっても構いません。しかし、原価の中にも無駄に浪費されているものや、効率を無視したがために発生しているものがあるはずです。コストダウンとは、そういう類いのコストを見直し削減することなのです。
1.売上−売上原価=売上総利益(粗利益)
企業が最も大切にしなければならない利益がこの売上総利益(粗利益 会社の存在意義でもある付加価値)です。
ここで発生する売上原価は、卸・小売業なら商品の仕入にかかるコストであり、製造業なら原材料の購入費用や製品を造るためのコストです。品質管理や工程管理に注意を払い、不要なコストが無いかの見極めが重要です。
2.売上総利益−販売費及び一般管理費=営業利益
必要のないコストの削減で、真っ先に浮かぶのが交際費です。交際費に見合う売上・利益を計上できるのならそれでも構いませんが、交際費がかさめば、税務上でも損金不算入となり課税されてしまいます。他の勘定科目とともに中身をチェックしましょう。
3.営業利益−営業外損益=経常利益
ここで発生する原価は支払利息や割引料といった金融支出です。借入金自体のボリュームを圧縮し、資金調達時の金利を低く迎えることがポイントです。金融機関との折衝においては、ファイナンシャルマーケティングを熟知することが有効です。
4.経常利益−特別損益=税引前当期純利益
ここでは、過年度の利益の修正や、臨時的、突発的に発生した異常な損金が原価として発生します。性質上、特別損失を抑えることは難しいものです。しかし、日々の会計処理や品質管理・工程管理を厳密に行えば随分と抑えることができるでしょう。
5.税引前当期純利益−法人税、住民税及び事業費=当期純利益
ここでの原価は法人税や地方税です。企業は、社会貢献のため税金を納付することは当然の義務です。しかし、当期純利益は発生しているが、バランスシート上に課題を抱えている会社などは、納税に抵抗を感じることだと思います。その場合は、節税となる対策を講じて、当期の課税支出を抑えることに力を注ぐことも考えるべきです。そして将来、課題が解決した時に、快く納税する心構えを培って下さい。
6.株主資本前期末残高−当期変動額+当期純利益=株主資本当期末残高
ここでの原価は、株主への配当金や、役員賞与です。十分な利益を確保したいのであれば、当然出資者である株主や、経営陣である役員へ還元するべきです。しかし、ここで繰り越された株主資本当期末残高は、会社の体力である内部留保となります。従って、長期ビジョンに立って利益処分と内部留保のバランスを見極めることが重要となります。
原価といっても様々ですが、皆、支出されるものに変わりありません。将来会社にとって何も役に立たない『死のコスト(無駄な交際費など)』は、即刻見直しをかけて削減するべきです。それは、結果として顧客のためでもあり、社員のためでもあり、強いては経営者と株主の為でもあるのです。
2.原価がわかれば会社がわかる
企業の経営実績は、損益計算書と貸借対照表が作成されます。それらは、前期以前の同じ基準で作成されたものと比較すると、各期の事業活動によって獲得され増減した売上、経費、財産が状態がよく分かり、経営の現状、傾向が読みとれます。
損益計算書は、その会計年度(通常は、1年間)の売上・売上原価・販売費及び一般管理費・営業外損益・その期に発生した特別損益・租税負担額・当期純損益の一覧表です。
損益計算書をベースにして、企業の経営実績をより明確に把握する為、コストである売上原価、経費を変動費と固定費に分類する必要があります。さらにこの分類を企業の各部門別に実施することが重要です。
変動費とは、売上(収入)の増減に比例するコストで製造業では材料費、商業では仕入などです。固定費とは、その言葉のとおり固定的な費用で人件費・家賃などが該当します。企業の営業活動とは関係なく推移する期間費用です。
これは、変動損益計算書と言われ、利益管理と手法として、工業簿記で採用された原価計算の方法です。
さて、変動損益計算でなにが明らかになるでしょうか。
変動費に分類された費目は、売上の増加に比例して増加します。その増加比率(変動費率)は、値引きがない限り一定です。
この一定の比率を押さえておく事が重要で、
売上×(1−変動費率)=貢献利益
が、固定費の賄いに当てられます。つまり、損益計算書の内容を
売上(収入)−変動費−固定費=損益
とするわけです。
業種・業態また各部門にとって変動費項目は違ってくると思われます。例えば、運輸業では燃料費、人材派遣業なら本来固定費であるべき派遣社員の給料などを敢えて変動費に分類します。
経営診断には、損益分岐点と言う考え方がありますが、変動損益計算を使うと容易に計算できます。
損益分岐点売上とは、損益がゼロの状態ですから変動損益計算では
固定費=貢献利益
の状態を意味しています。ですから、
損益分岐点売上=固定費÷(1−変動費率)
となります。
この手法を、各部門に適用することによって企業の各部門毎の損益分岐点が把握できます。
部門別計算書では、本部(事務)部門の固定費を営業活動を行う他の各部門に一定の基準で配賦することになりますので
固定費+配賦固定費+変動費=各部門の総コスト
になります。この方法は、年一回の決算だけではなく、毎月作成される試算表等に採用できます。
月々の試算表を過年度の同月の変動損益計算書の形式で比較し、対比することで原価意識が高まります。
毎年の決算は、この試算表の積算である事の認識が重要です。
3.原価管理の強化と社員への原価意識の徹底法
原価意識を徹底させる一番効果のある方法は、全社員に自分の所属しているあるいは課またグループごとの全ての広い意味での原価(仕入原価、製造原価、工事原価、役務原価の他部・課・グループ毎の一般管理費、それに付随する諸経費、仕事のロスもお金として換算し原価としてとられる)を知らせること、また常に関係者に見えるようにITを利用したりして社内共有情報として整備しておくことです。
原価管理を徹底させて収益の向上をめざすためには、事前管理(目標原価または予測原価設定)や進捗状況(施行途上)での予算原価と実際原価の比較による差異管理がとても重要です。このときの原価比較で大きな差異を発見し問題が起きそうなときは早期に問題点を解消し改善するなど未然に防止したりすることは収益向上に直結します。
どのような業種においても、最初に原価が算出されそれに基づき販売価格、製品価格、受注価格がつくられます。ものを販売する側の見積原価算資料等、ものをつくる側の目標原価(予算原価)、どちらの仕事にとっても、原価が企業の利益のカギをにぎっています。
したがってITの活用などにより必要なデータが常時閲覧でき見積原価が簡単に算出できるしくみ、原価管理が簡単にできるしくみがあると、業務の効率化が図れミスも軽減できます。
原価算出の方法及び原価管理を徹底させるしくみづくりができていれば、いつのまにか原価意識が全社員に徹底し企業の利益もおのずと向上していくでしょう。
各業種別原価構成図
小売業
(販売価格−仕入価格=利益・商品種別毎の原価管理)仕入原価→販売価格
売上高 |
売上高−売上値引高−売上戻り高−売上割戻し高 |
商品の売上 |
売上原価 |
期首商品棚卸高+当期商品仕入高(仕入原価)−仕入値引戻し高−仕入割引戻し高−期末商品棚卸高
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売り上げた商品に対する仕入原価 |
売上総利益 |
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製造業
(標準原価・実行予算−製造原価・実際原価=価格差チェック)見積原価→見積書→受注
売上高 |
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製品の売上 |
売上原価 |
期首商品棚卸高+当期商品仕入原価+当期製品製造原価−期末製品棚卸高
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製造原価報告書
(当期製品製造原価の内訳)
1材料費
2労務費
3製造経費
当期総製造費用(1+2+3)
当期製品製造原価(期首仕掛品棚卸高+当期総製造費用−期末仕掛品棚卸高) |
売上総利益 |
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建設業
(実行予算書−実行原価・支払原価=価格表チェック)見積原価→見積書→受注
売上高 |
完成工事高 |
工事完成基準による売上高・工事進行基準による売上高 |
売上原価 |
完成工事原価
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完成工事原価に対応した工事原価
完成工事原価報告書
1材料費
2労務費(うち労務外注費)
3外注費
4経費(うち人件費)
完成工事原価
(材料費+労務費+外注費+経費) |
売上総利益 |
完成工事高総利益 |
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サービス業
(目標収益−役務原価=目標利益管理)
役務収益 |
役務提供による収入(サービス提供料) |
役務原価 |
材料費・労務費・経費 |
売上総利益 |
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4.コスト意識を高める発想と手順@
販売会社Aから依頼された案件事例
「全拠点黒字化のための研修をして欲しい」
現状を確認すると、数値意識・コスト意識を高めるために、月次決算書を各拠点長に配っているものの、殆ど見られず机の中に直行ということでした。売上向上には、コスト意識の高めることが不可欠であるという視点か以下のカリキュラムを構築しました。
(1)決算書の読み方(売上〜粗利〜営業利益)
そもそも損益計算書の見方が分からないということであれば、興味は沸きません。基本的な知識の習得は欠かせません。
(2)シミュレーションを立てる
自分の拠点の損益計算書を持参し、売上を5%増減させる、粗利益を1%改善させる、経費率を1%下げる、労働分配率を1%下げる、などを電卓を用いて、営業利益がどのくらい変化するかを体験してもらいます。
(3)
黒字化のための計画を作る
黒字化達成の為に売上、粗利率、経費額をどれほどの水準にすればよいのか計画を立てます。
(4)
達成のための行動を策定
数字計画に基づき、具体的なアクションプランを立て、年間の研修によりその進捗や成功事例の共有などを図り、黒字化を目指しました。
重要なポイント
(2)のシミュレーション
業種業界にもよりますが、粗利率1%の改善、経費額の1%減少だけで、営業利益が150%にもなることがあります。
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@ |
A |
B |
売上高 |
384,000 |
384,000 |
@より5%増えたら |
粗利率 |
25% |
26% |
25% |
粗利益 |
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経費 |
86,000 |
@より1%減ったら |
86,000 |
営業利益 |
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ぜひ前ページの表を計算してみて下さい。これを計算した人の80%は驚きの色を隠せませんでした。特に自分の拠点の数字であれば、興味もやる気も沸くものです。「よしやれそうだ!」と思ってもらえば大成功です。
(3)の計画策定
実際に目指すべき利益があり、そのためにはどれだけの売上高、粗利率、経費額が必要になるかを、現実的な計画として立てもらいます。「販促費に対して、どれだけの売上アップを目指すか」「売上アップは厳しいのでこれだけの経費削減で利益を捻出しよう」などこすと意識が自然と研修の中で芽生えてきます。
(4)で具体的行動
目標数値や予算など設定していても、達成のために具体的にどんな取組みをしていくかというところまで落とし込んでいる会社は案外少ないのが現状です。数値だけを示して、興味が沸いたり、やる気になったりできるのはごく少数です。数値から具体的行動が導き出せるかが大事です。
計画策定によって具体的行動まで落とし込むことができましたが、本当の意味で成果を出せるかどうかは、ここからが勝負です。つまり、具体的な経費削減であったり、目標利益達成だったり、目に見える成果が必要です。進捗管理は経営トップが毎月拠点を訪問する、進捗ミーティングを常に開催する、など地道な活動が大切です。
具体的行動を決めても、任せっぱなしでは成果は期待できません。数値を知識習得だけではなく、具体的な行動そして成果創出という手順を踏んでいくことが大切です。
販売会社A社は、1年目で全拠点黒字化が達成されました。
5.コスト意識を高める発想と手順A
コスト意識を高め、前向きなコスト削減を実施するたまには、意識を覚醒させる必要があります。つまり眠った意識を呼び覚ますのです。
考えてみると、家庭では誰もいない部屋の電気をつけっ放しにすることはありません。電話料金を気にせずに延々と喋り続けることもありません。不思議なのが、一旦家庭を出ると人はコスト意識を家庭に置いて会社に来るのです。
なぜ、家庭でできて会社でできないのか。 答えは簡単、自分の懐に直結する問題ではなくなるからです。
もともと持ち合わせているコスト意識を呼び覚まし継続させるためには、常に意識のスイッチをonにさせておく必要があります。
以前、関西電力の営業マンにいわれた、「スイッチの入れ替え時が一番電力を消費します。だから、なるべくつけっぱなしが一番ですよ(笑)」という話にあるように、一度offになった意識をもう一度onにすることほど大変なことはありません。
コスト意識を社員に広める手順
1.1000項目のチェックシートで個々人のコスト意識をチェック
コンサルティングの現場では内容は光熱費や通信費など用途別に分類されたものを使います。このチェックには、会社のコスト意識の実態を知るという目的もあります。
2.
委員会をつくる
社長をトップに有志の担当者で構成されたコスト削減推進委員会(仮称)を設置し、コスト削減可能性調査・分析、実施を推進します。単に各社員個々人の問題として取り扱わず、全社的なコスト削減の取り組みが収益力を伸ばし、企業の競争力に大きく影響するという認識を持つことが重要です。
委員の主な役割は、事前調査から抽出された、経費削減項目や使用量についてムダや付帯サービスの有無、経費削減の可能性についての調査することですが、サプライヤーとの交渉も大事な役割です。サプライヤーとの交渉をとおし、業界内の常識を越えて、そもそも経費削減担当者とは何をする人なのかを理解するきっかけをつくることが大事でしょう。さらに、コスト削減額の10%を社員に還元すると金額は少額でも一気にモチベーションは高まります。
コスト削減には社員全員の協力がなければうまくいきません。だからといって、全社員一同に一つの方向に向かって動こうとしても、人それぞれに知識や経験や能力、目的に向かって進む速度や方法が違うため思うような成果は出ません。だからといって、個々人が自分の都合だけでてんでバラバラに行動していても結果は同じです。
そこで、参加者数には制限を設けた、グループだったりチームで構成した組織をつくるとコスト削減は一気に広まり、継続します。「今月のCチームの経費は○○円です。」とチームの売り上げに反映する仕組みをつくれば確実です。
肝心なのは、マイナスイメージとは程遠い、コスト削減策です。
コスト削減のメリットは全員が取り組みに参画することができ、成功体験を共有化することにあります。
6.コスト意識を高める発想と手順B
資源の少ない日本は、元々「節約」美徳としてきました。しかしながら、高度経済成長が続き、いつのまにか大量生産下で「消費」が美徳(?)の風潮となり大量消費時代に突入、引き返すことの出来ない経済循環に陥っています。
2005年の国連会議で、ケニアのワンガリマータイ女史(ノーベル平和賞受賞者)が日本の伝統的思想「もったいない」を世界共通語に広めようと提唱しました。企業のコスト意識の結論は、経営学の父・ドラッガー氏の名言集にある“コスト削減の最も効果的な方法は、活動そのものをやめることである”にあるかも知れません。
しかし、生産活動上コストがかかるものです。
日本電産の永守社長の信念は「一番以外はビリと同じ」で、母の教育“他人の倍働いて、負けないはずがない”に習い「一生懸命働く」を基本とし、モットーは「あいさつ」と「掃除」とのことです。そして、これまでのM&A100%成功の秘訣を“対象企業の工場見学(5S)で判断した結果”と言っています。
コスト意識を高めるため発想と手順の原点は、こうした「もったいない」や「5S活動」にあると考えています。組織の末端までが、しっかり理解ができて簡単でしかも徹底して削減効果の上がる方法の基礎編を確認してみましょう。
社内のムダを取り除く
日常業務に隠されている「社内のムダ」が、統計では40%を占めると言われています。簡単なことですが、社員一人ひとりがムダを発見しコスト削減意識を持ち続けることで大きな効果を生むものです。
@「会議」による会社の損失
結論のない会議、もたれあい会議、雑談、暇つぶし会議の多い事。「会議」は参加者に事前に資料を配り熟慮の上出席し、最短時間で結論を出す場所である。
A「他人の時間」を奪わない
人件費は、コストの魂である。同僚・部下の仕事時間は、各人が会社業務に専念すべき大切な時間で、自分の都合で他人の時間を邪魔する事は許されない。
B「会社の経費」をムダにしない
会社の金は、会社の財産です。交際費・交通費など、自分の金を使う時より厳しくシビアに考え、経費のムダ使いを社風にしない事です。M銀行では「エレベーターの開閉ボタンを押すな!1回10円かかる」と張り紙をし、H製作所では「社員の机の中にあるボールペンを全て回収。改めて1本づつ配り、後は替え芯交換」で意識改革、収益効果を挙げている。
5S活動によるコスト改善
「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の5S活動は、誰でも知っている事業所の基本心得です。犯罪都市で有名だったニューヨークの街をジュリアーノ市長が“物陰に犯罪の温床がある。駐車違反を徹底的に取り締まる。”として安心して地下鉄に乗れる街に変身させたのは有名な話ですが、企業も同じ事が言えます。5Sの徹底が、コストの削減を実現し収益力の高い優良事業所を生む大きな要因になるのです。
コスト意識の徹底で利益アップ
「5S活動」と「もったいない心」が定着した職場は、社員のモチベーションが上がり、時間節約が隅々まで浸透し設備の耐用年数が向上するなど様変わり、安全でコストダウンが徹底し標準化された素晴らしい企業に生まれ変わることになるのです。
7.コスト削減を進めながら顧客を獲得する
コスト削減は、企業にとって進めなければならないリストラクチャリングの一つです。リストラというと、とかく人件費の抑制と思いがちですが、それよりも有効な手段は、無駄な営業広告費をカットして効率的により多くの顧客を獲得する方法を考えた方が得策です。
広告やチラシなどの媒体を利用して顧客獲得を進めている企業にとって、広告費をカットすることは一見効率は悪くなり、売上や利益に少なからず影響すると考える方もおられると思いますが、営業広告費のコスト削減を進めながら新規顧客の獲得、リピート客の回転率のアップを考えてみましょう。
例えば、ある会社では年間を通じて毎月30万円の広告費をかけて顧客の獲得を進めているとします。売上が高い月もあれば、極端に低い月もあるでしょう。しかし、売上が悪い月に、「売上あげろ」といくらハッパをかけても売上はそう簡単に上がるものではありません。それよりも、売上が低い月の広告費は極力減らして、ピーク時にその浮いた費用を売れる月に投入することです。
もし、売れない月の広告費を3分の1の10万円にして営業をした場合、月の売上額が同じ程度であれば、今までの勧め方に問題があったことが分かります。その問題を解決するためには、過去3年間の売上統計をグラフ化することです。グラフ化すると、実績の良い月、悪い月は一目瞭然です。
時期を見据えて広告費の投入することは小予算で優良顧客を獲得することにも繋がりますし、同時にコスト削減もできる費用対効果的に顧客を獲得できるようになるわけです。
DMについても同じことがいえます。
見込み客のランク、既存客のランク、(リピート回数)を把握していないと、Aランク客、Bランク客、Cランク客という全ての顧客に対してDMを送っていることになります。年間1回しか購入しない方に対して、顧客ランクの高い顧客と同じ回数の接触を持っても購買回数が変わらなければ、結果として無駄な広告費を使っていることになります。
これでは顧客獲得コスト(CPO)は上昇する一方で、利益は低下することにもなります。
既存客にDMを送るのであれば、年間購入回数の多い顧客へより多くの接触を図る方が効果的に売上アップできるわけです。
年間同じ広告費で、より多くの顧客を獲得できれば、それはコスト削減にも繋がります。またここでも、年間データをグラフ化すると、同じ広告費を投入していても売れている月、売れていない月は一目瞭然です。売れない月の予算をカットして売れている月に回せば、単純に1.5倍から2倍の効果が出ることが予測できます。
しかし、実際には統計を取らずに、一つの習慣のように広告費を使っている企業は少なからず存在しています。
売上をアップさせたい場合は、広告費の投入時期を見直すことで、今以上の売上利益を得ることができるようになります。無駄な費用をカットすることは、健全な企業運営を行うために必要な利益率のアップにも繋がります。広告費の使う時期を間違わなければ、コスト削減ばかりか小予算での顧客獲得を可能にするのです。
8.赤字が続く場合の対処法
日本の中小企業は、約7割が赤字と言われています。赤字が続いて、経営計画を立てたのですが一向に赤字が減りません。なぜでしょう。赤字の素は何なのでしょうか。 それは、固定費です。赤字の原因は固定費にあります。
@固定費が赤字の素
会社の費用には、固定費と変動費があります。固定費とは、売上高に連動しないで掛かってしまう費用です。変動費とは、売上高に連動して掛かる費用です。
仮に固定費がないとすれば、赤字になりようがないのです。しかし、固定費が全くない会社などありえません。経費は必ず掛かるものですが、要は固定費をいかにして変動費にしていくかを経営計画を立てる段階から考えることが、赤字脱却の道だと気づくことが肝要です。
A経費の変動化へのコツ
経費を変動費にするためには、工夫が必要です。人件費を考えてみましょう。固定給ならば、固定費になります。歩合給ならば、変動費になります。賞与は、利益が出たら払い、利益が出なければ払わない。年二回の賞与は、固定費の要素が高いので、年二回の固定賞与よりも決算賞与にします。決算で目標利益が出たら支払うようにする。これによって、人件費を変動費化させることです。
現在は、週休二日が定着しています。休日を計算してみると、稼働日数がおおよそ月20日です。月によっては、18日の月もあります。
18日稼動になると月30日な場合、3対2(稼働日18日、休日12日)です。全体の給料のうち、5分の2は、休日の分を支払っています。固定給にウエイトがあると、企業はいかに大変かということがわかかると思います。
また、突発的な仕事は、アウトソーシングします。これが変動費です。あるかないか判らない仕事の為に、従業員を雇用しておくことは企業にとっては負担です。しかし、外注にすれば一件いくらと値段が付きます。つまり、仕事内容に応じて社内でも一件いくらと値段をつければ変動費化できるのです。
B経営計画を立てる
固定費がなければ、赤字がないことが判りました。固定費より変動費のほうが良いのです。変動費経営が赤字の続く場合の対処法です。そのためには、経営計画を立てて黒字になるにはどうするか考えなければなりません。経費をどう見積もるかがカギとなります。そのためには、経費の予算を3つに分けていきます。
イ)
必ず必要な経費
ロ)
現状によって掛ける経費
ハ)
調子がいいときに掛ける経費
イ)は固定費の要素が非常に高いので、慎重に見積もることです。ロ)ハ)は、変動費の要素が高いので、業績を見ながら掛けていく経費です。イ)の必ず必要な経費を出来るだけ少なくすることが赤字対策です。ロ)ハ)を掛けられるようになれば、業績が上がっている証拠です。
常に固定費を変動費に出来ないか検討していきましょう。
9.新しい原価マネジメント
従来の原価管理では、開発した製品について、その原価の維持・低滅に努めてきました。購買部門では、製品を作るために必要な原材料や部品について、仕入先から1円でも安く買うために努力を払い、製造部門では、就業時間内に1個あるいは1台でも多くの製品を作ることによって、原価の低滅を図ろうとしてきました。
しかし、購買部門や製造部門は、あらかじめ決められた原材料や部品を購入したり、加工したり、組立てをすることについての改善であり、原価低滅を図ろうとする範囲は限られたものでした。
現在は、設計段階で、よりよい品質の製品を作り上げるための製品設計と、より安価な製品となるためのコスト設計(製品こすとの作り込み)を検討することが求められてきています。
製品開発の進め方には、大きく2つに分けることができます。
方法 |
特徴 |
仕様書や図面が出来上がった時点で、社内および仕入先から見積もり金額を入手し、目標コストの範囲内で達成できているかを確認していく方法 |
達成できていなければ、設計に見直しを初めから進めなければならない |
開発する製品を装置やユニット、機能などに分けて目標コストを割付け、それぞれの範囲内で製品の目標コストを達成していく方法 |
割付けられたコストがオーバーした段階で見直すことができ効率化を図れる |
ただし、部品のコスト算出(見積もり)のあり方が課題になることがあります。
例えば、社内では、1000円、A社では1200円、B社では800円、C社では1100円というように違ってきます。これらの金額のうち、その金額を適正と考えたらよいのでしょうか。
同じ部品を見積もっても、その会社の持っている設備機械や社員レベル、財務状況などが違うため、見積もり金額が異なるのは当然です。
しかし部品レベルの小さな(?)差が装置やユニット、機能、さらには製品になれば大きな差額となってしまい目標コストが達成できている否かの判断ができにくくなってしまいます。
適正な見積もりには、理論的・科学的な裏づけのあることが求められます。そして、その理論的・科学的な裏づけに基づくコストの基準を持つことです。このコスト基準をもとにコスト算出(見積もり)を行えば信頼度のある目標コストの達成を評価することができるようになるわけです。
このコスト基準の設定が、目標コスト達成のキーとなって、高い性能や品質とベストコストの製品を実現するのです。
コストは違って当たり前
部品 |
社内 |
1000円 |
コスト準備が必要 |
A社 |
1200円 |
B社 |
800円 |
C社 |
1100円 |