Q:私の父は、株式会社形態で工務店を営んでいましたが、先頃亡くなりました。相続人は、母、兄、私の3名です。 父は取締役会長、叔父が取締役社長、兄が専務取締役、私が取締役、母は監査役になっていました。父は会社の株式の80%を、叔父は残りの20%を所有していました。 父の株券は、自宅(兄夫婦と同居)の金庫に保管されています。父は公正証書遺言を残しておりました。 (1)自分が所有する工務店の株式は全部私に相続させる (2)遺言執行者としてX弁護士を指定するので、株券を私に引渡し、私への名義書換を遺漏なくすませてほしい という2点が記載されていました。 しかし、兄は、遺言の効力には疑問があるといって、金庫内の株券を私に渡すことに難色を示しています。なお、会社の定款には、株式の譲渡制度の定めがあります。 そこで質問ですが、(1)遺言執行者というのは、どのような仕事をしてくれるのですか。また、(2)私が父の株式を自分の名義にするには、どうすればよいのでしょうか。 A:(1)遺言の執行とは、遺言が効力を発生した場合にその内容を実現するために必要な行為を行うことをいい、そのための事務を行うのが遺言執行者です。 (2)株式の名義書換をするには、株券と遺言書を会社に呈示して請求することになります。 そのためには、お兄さんを説得して株券の交付を受ける必要がありますが、あなたと遺言執行者 のいずれもこの手続きをとることができると解します。なお、株式を「相続させる」遺言がなされている場合、株式の譲渡制限ははたらかないものと解します。 ただし、お兄さんの遺留分の減殺請求権の問題は残ります。父があなたに経営権を問題無く承継したいために、新会社法による対策をしていないかは定款等で別途確認しておくことが必要です。 〔解説〕 1.遺言執行者の意義 遺言執行者への就職は辞退することもできますが、ここでは、X弁護士が就職を承諾したもととし、遺言も有効なものであるとします。 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条)、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条)。 遺言が特定財産に関する場合、これらの規定はその財産についてのみ適用されます(民法1014条)。 なお、遺言執行者は相続人の代理人とみなされます(民法1015条)。 2.「相続させる」遺言と遺言執行の職務権限 遺言には、遺言執行の効力発生とともに当然に効力を生じ、その執行の余地がないものと、執行を要するものが存在します。遺言執行の権限が認められるのは、当然、後者の、執行を要するもののみです。 問題は、「相続させる」遺言について執行の余地があるかどうかという問題です。株式を「相続させる」遺言について論じたものは見当たらないので、不動産の場合の裁判例を参考に考えてみましょう。 裁判1991年4月19日民集45巻4号477頁が、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言の効力つき、原則として何らの行為を要せずして当該遺産は被相続人の死亡により直ちに相続により承継されると判示したこと等から、「相続させる」遺言には、執行の余地はないという説もあります。 しかし、その後の裁判例では、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言がなされた場合の遺言執行の職務権限について、 (1)登記名義の移転は遺言執行者の職務権限に属するが、当該不動産が被相続人名義であるときはこの職務権限は顕存化しない (2)占有の移転は遺言書にその旨が明記されている場合などを除き、職務権限に属しない (3) 他の相続人が相続開始後に当該不動産につき、被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は所有権移転登記の抹消登記手続等を求めることができる などと判示しています。 3.株式を「相続させる」遺言と遺言執行者の職務権限 ご質問の場合、「相続させる」遺言による株式の移転は、株式の譲渡制限には服さず、遺言の効力発生と同時に、当然にあなたに株式は移転すると考えられます。
Q:85歳の父はA株式会社の代表取締役社長、長男の私はその会社の専務です。会社の経営を引き継がなければならない立場にあります、A社所有の資産には重要なものはなく、A社全株式および土地・建物は社長である父の名義となっております。 最近父(社長)の言動がおかしく、前日に話し合ったものも忘れてしまい、そんな話は聞いていないと怒り出す始末で、ほとほと困っています。 (1)私には年の離れた弟がいます、勘当同然でしたが、近ごろひんぱんに父のところに顔を出します。つい最近ですが、父のゴルフ会員権の贈与を受けたと聞いて、驚いています。父の財産は重要な事業継承資産であり、たいへん心配です。 (2)父は私を後継者に考えていますが、なんら特別な法的措置を行っていません。父が痴呆状態になった場合を考えるとたいへん心配です。
A:(1)お父さんは軽い痴呆とのことですので、一般的には家庭裁判所に補助開始の審判を申し立てることが考えられます。 贈与について補助人の同意を要することを定めることによって、補助人の同意のない贈与は取り消すことができることになるからです。 (2)お父さんが痴呆になる前の対策として、任意後見契約の利用をお勧めします。 現時点で、軽い痴呆であっても、意志能力があれば、特定の後見人候補者に対して、本人の老後の世話の仕方、扶養の条件、事業承継者への株式の移転等について「遺言」のような書面によって、意思を表明しておくことも可能ですが(一種の「リィング・ウィル」生前発行遺言)、任意後見契約の場合には、さらにその意思を実現してくれる人を公正証書契約によって選任しておくことが可能となりました。 また任意後見契約が登記されている場合には、原則としてこれが法定後見に優先しますので、後見人の選任をめぐる身内間のみにくい争奮戦も防止できます。 〔解説〕 1.新成年後見制度について 民法は「本人」が痴呆などの精神上の障害により判断能力が不十分になったときに、法律がそれを補う制度を作っています。 人の判断能力に関する制度として、従来の禁治産・準禁治産制度を改正した「法定後見制度」(軽度の痴呆者を対象にした「補助」の制度が新設)と、新しく制定された「任意後見制度」からなる新成年後見制度を2000年4月1日から施行しています。 新設の「任意後見制度」は、将来、判断能力に支障をきした場合に備えて、正常な判断能力があるうちに、事前に「任意後見人」を選任し、公正証書によって、任意後見契約を結び登記しておきます。 後日、本人に判断能力の低下・喪失が生じた時点で、家庭裁判所が「任意後見監督人」(任意後見人の権限乱用の防止目的)を選任した時点から効力が生じます。 2.事業承継と任意後見契約について (1)なぜ、任意後見契約が必要か 今日、高齢化社会を迎えて、健全に生きている状態と死との間に「痴呆」という状態が狭まることが多くなってきました。オーナー経営者といえども、いったん痴呆、寝たきりになったりすると、本人の意思を判断することもむずかしくなり、会社経営も本人の自由になりません。事業承継に関しても、本人が考えていた後継者が次期社長になれるとは限らないのです。 痴呆後は事後的に法定の後見人がつきますが、後見人は本人の財産管理に関して大きな権限を持つので、だれが後見人になるかで、事業承継も大きな影響を受け、後見人の争奪戦という相続争いの前哨戦が勃発しかねないのです。 オーナー経営者たる者は、痴呆等になった場合も想定して、事業承継をスムーズに遂行するために、事業承継に関する自己の意思を表明しておくにとどまらず、その意思を実現してくれる任意後見人を事前に選んで、契約を結んでおくことが必要となるわけです。 (2)任意後見契約の活用 事業承継に関して、死後のことを決めておく遺言に対して、痴呆後のことを決めておく任意後見契約を「もうひとつの遺言」として捉えることによって、はじめて生前(痴呆後)から死後までの事業承継対策が円滑に行えることになります。 経営者が高齢な場合、本人がバリバリ仕事ができる段階でも、将来、脳梗塞等で倒れたり、寝たきりきり、痴呆等になる場合も想定して、信頼できる任意後見人に事業承継に関する意思、たとえば、「A社の後継者とすることを前提に、私が所有するA社株式を全部長男に譲る」などと任意後見契約書に書いて、その意思を表明しておくことです。 また、事業承継事項でも代理契約になじまない事項は、任意後見契約書とは別に、意思を表明した書面(一種の「リィング・ウィル」生前発効遺言)として作成しておく方法も望ましいことだと思います。
Q:父の死亡により財産を相続しましたが、大部分が父の会社の株式で、納税するための金融資産もほとんどありません。相続した株式を物納することで、税金の代わりにできるという制度があると知人に聞いたのですが、どのような制度でしょか。 A:非上場株式であっても、譲渡に関して定款に制限がない株式(出資証券)については、1992年の税制改正で、条件付物納可能とされています。 物納の対象とすることができないのは、相続税法第42条の第2項但し書きで、「管理または処分をするのに不適当であると認める」財産についてであると記載されています。 具体的には、国税庁の職員向けの内部通達である相続税基本通達42−2で、「売却できる見込みのない有価証券」と記載され、いわゆる未公開株式は、その流通性のなさ、譲渡可能性の困難さ等から、物納にはなじまない資産とされてきました。 1990年代に入り、バブルの崩壊とともに、地価・株価が下落し、相続税の支払いが実際上、むずかしくなるにつれ、前述の税制改正で、法的には物納可能となったものの、適用事例は少なく、2002年7月8日付けの通達の一部改正で物納可能なケースが実際に明らかにされることとなりました。 〔解説〕 〈別表〉2002年7月8日付け通達の一部改正(課資2−9,課審5−9、徴管5−9)の内容 (1)株式発行会社について 1.直近2期における「総資産経常利益率」、「売上高経常利益率」および「総資本回転率」のいずれか2つの指 標が、「法 人企業統計調査」(指標統計第110号)における同業種の直近2カ年度の平均利率を超えて いること 2.発行会社の直近2期における当期利益(税引後)がマイナスでないこと 3.発行会社の直近2期において配当可能利益があること 以上の3つの要件を満たし、売り払いが確実に見込まれる場合 (2)物納後、当該株式を買い受けることの希望をもつものが確認できる場合 (1)について いわば、株式発行会社の財務内容の形式基準と、当該株式の売却の可能性の組み合わせよなっています。 財務内容について、「法人企業統計調査」の結果が財務省のホームページで公開されているため、インターネットで閲覧、比較することが可能です。現状の財務内容が基準をクリアしていれば問題ありませんし、基準を下回っている場合は、今後の会社の経営計画において、基準を上回るように努力していくことが肝要となります。 ただ、売り払いが確実に見込まれるという基準は、たぶん主観的であり、国有財産の処分入札において、買い手が期待できるかがポイントとなります。通常、未公開株式は、株主数も少なく、売買が活発に行われるような株式でもありませんので、縁故関係や、従業員、取引先、関係会社等がターゲットとなります。 もちろん、株式公開をめざして準備中の場合であれば、ベンチャーキャピタルや、中小企業投資育成株式会社等への株式取得の依頼も考えられます。 (2)について 物納後、当該株式を買い受けることの希望をもつものが確認できる場合とは、まさしく、(1)で述べたような、縁故関係や、従業員、取引先、関係会社等による株式の購入の働きかけを行う場合を指します。 従来も、相続人がこれらのものに相続した株式を売却し、納税資金を調達することは可能でしたが、あくまで株式の譲渡であるため、売却人に譲渡所得が発生し、所得税が行われることになります。 ところが、物納を選択すれば、相続税評価で計算された評価金額そのままで、相続税に充当できるため、所得税分の差し引きがなく物納が可能となります。 したがって、相続発生にそなえて、株式を購入できる買い手の準備と、その買い手が、購入資金を準備できるかの事前の事業承継対策がポイントとなります。 かつて、商法は会社による自己株式の取得を原則として禁止していましたが、1994年からは、例外的に自己株式の取得が認められるようになり、さらに2001年10月からは、いわゆる金庫株が解禁され、自己株式の取得は原則として自由になりました。 しかしながら、会社が自己株式として取得できる金額は、原則として配当可能利益の範囲内であるため、会社は着実に利益をあげ、内部留保を蓄積していく必要があります。 また、会社の財務諸表上、配当可能利益があっても、設備投資や資産の購入済等で、自己株式買取のための資金がなければ、実際上、取得は不可能となります。収益体質の強化ともども、資金繰り対策も必要となります。 2002年7月8日の通達の一部改正を契機に、自社については、物納形式基準クリアのための効率経営、自社株買取資金の準備、また、常日頃、自社株の買取候補先の選定と、当該候補先の資金の準備の依頼にこころがけることが望ましいと思われます。 なお、実際の物納申請にあたっては、物納申請書、発行会社の定款の写し、発行会社の直今2期の営業報告書の写し、発行会社の株主名簿の写し、発行会社の商業登記簿謄本、当該株式の評価証明書の写し、発行会社における資産証明書、等の提出が必要となることを申し添えておきます。
Q:私は、4人兄弟姉妹の長男ですが、父の創業した家具製造業を営む株主会社の代表取締役をしています。父はかなり前に他界し、その後、母が全株式を保有してきましたが、つい2ヶ月前になくなりました。 まだ、遺産分割協議を終えていませんが、新会社法106条商法203条2項の「権利行使者」に私が選任され、その立場において一時的に代表取締役の地位についています。 今後も家業を継続していきたいと思っていますが、私が全株式を取得して、弟や妹に金銭を支払う代償分割を実行するだけの手持ち資金はありません。 幸い私が会社の代表取締役として経営の任に当たることは反対がないので、現状のような形で遺産分割を終えたいと思っていますが、法律上、可能であるかどうかおたずねいたします。 A:ご質問の場合には、4人の共同相続人が自己の相続分の株式を出捐して、新たに持株管理組合を結成し、あなたがその組合の業務執行者として会社経営を担当するように、遺産分割を終えるという方法が考えられます。 〔解説〕 本来であるならば、共同相続人は遺産分割案手続きにおいて、各自、自己が取得するべき財産を確定することになりますが、企業承継を実現させるために、家業である株式会社の株式を各自が分割して取得したものとしても、この株式を新たに出資して組合を結成することが考えられます。 この場合、遺産分割案手続き自体を終了したとしても、各自が分割して取得した株式を統一的な管理下におくことができ、会社の家業的性格を維持することが可能となります。 ドイツではこの種の管理組合を結成することが実務上根付いており、私はこの組合を持株・持分管理組合といっています。この持株・持分管理組合を通じて、いったん各自が個別に取得することになった株式や持分を統一的に管理し、かつ統一的な権利行使が可能となります。 持株管理組合の法的性格は、民法上の組合ですが、法律概念上は、株式会社における社員権(株式)に関する内的組合です。本設問における法的処理を観念的な時間のプロセスを追って解説すると、各共同相続人は、遺産分割を経て持株管理組合を結成した後は、相続準共有状態を脱して持株管理組合の組合員となります、また、出資された株式は、組合財産として持株管理組合に帰属します。 この結果、組合員において、組合財産に関する合手的共同権利関係が発生します。また、持株管理組合には商法203条が適用されます。したがって、持株管理組合についても権利行使者が選任されなければなりませんが、通常は、持株管理組合の業務執行組合員(組合の代表権者)が同時に権利行使者に選任されることが多いでしょう。 この質問の事例の場合では、共同相続人4名の間ですみやかに遺産分割協議を行い、会社の株式はすべて持ち株管理組合に出資していただき、かつ、長男であるあなたを商法203条2項新会社法106条の権利行使者に選定してもらうことが肝要です。しかし、遺産分割案は終了していますから、あなたの立場は強化されています。 持株管理組合は、法律的に民法上の組合ですから、その内部関係を組合員相互の間での合意で任意に定めることができます。 その際における留意点は、一般の民法上の組合が特有の事業を営むことを目的として結成されるのに対して、持株管理組合はあくまでも株式や持分を一括して管理するという限定的な目的のために存在していることにあります。 したがって、その趣旨に即して、持株管理組合の内部事項において、最初から詳細に取り決めをしておくべきです。 たとえば、株式所有の分散をできる限り回避するという趣旨からして、その存続期間は長くとも共同相続人の一世代(30年程度)のみとするのが適当でしょう。 そして、その存続期間の経過後は、家業を継いだ企業承継者が含まれる一家族の構成員(創業者の直系卑属が好ましい)のみが株式をそのまま所有し続けることを定めておくのが適切です。 ほかの共同相続人(譲歩相続人)の家族は株式を保持しえず、将来において、その持株を企業承継者またはその家族員が買い取ることができる(先買権)旨を組合契約に定めておくことが必要です。 その際のポイントは、株式の売買価格あるいはその算定方法を明確に定めておくことです。物価や貨幣価値の変動がありうることを考えると、売買価格そのものより売買価格の算定方法を組合契約で定めておくほうが好ましいでしょう。 企業承継者のほうでは、将来における株式の買取りに備えて、金銭的な準備を怠ることはできません。 それゆえに、組合員の任意もしくは死亡による脱退および持株管理組合の解散に関する規定について慎重に検討したうえで、その趣旨の定めを組合契約に設けておくことが肝要であって、ひいては将来の紛争を予防することになります。
Q:私はある中小企業の創業者です。生涯、会社を大きくすることにのみ専念してきましたので、財産といえば自社の株式があるくらいなのですが、このままでは死んだときの相続税の負担が心配です。 2002年度の税制改正において、取引相場のない株式についての相続税の課税価格を減額する制度が新設されたと聞きました。 私の場合、この新制度を活用することによって相続税を軽減することはできるのでしょうか? 会社は、私と妻と子供たちが役員として経営しており、家族で株式を100%保有しています。資本金は3000万円で、私の所有株式数・会社の発行済株式数・価格は以下のとおりです。
私の所有株
15,000株
1株あたりの相続評価額
30,000円
A:2002年度税制改正で新設された特例は、相続又は遺贈により取得した、要件を満たす取引相場のない株式等のうち、その法人の発行済株式総数の3分の2に達するまでの部分について(ただし、評価額で10億円を上限とします。/2004年の改正で3億円から拡充されました)、一定の要件を満たす場合は、相続税の課税価格に算入する金額は、その評価額の90%相当額(10%減額)とするものです。 ご質問のケースのような場合、すなわち、宅地等を有しないような非公開会社の経営者の相続では、この新制度を活用することのメリットがあると思われます。具体的に計算しますと以下のようになります。
1.発行済株式総数の価格
30,000円×30,000株=9億円
〔解説〕 1.特定同族会社株式等の特例制度の趣旨 2002年度税制改正大網の検討事項では、「相続税については、最高率の引下げを含む税率構造の見直しや課税のベース等についての検討とあわせて、中小企業や林業経営者の円滑な事業承継に配慮した税制のあり方について、既存の特例措置を含め、早期に抜本的な見直しを行うよう検討を進める」と、述べています。今後の抜本的な見直しを視野に入れつつ当面の措置の一つとして設けられたのが、今回の、取引相場のない株式に対する相続税の課税価格を減額する制度です。 ただし、今回の特例において減額される金額の上限は制限が設けられており(10億円×10%=1億円を上限とします)、かつ、小規模宅地等の特例と選択適用とする(2004年度の改正で併用が一定の限度の範囲で可能となりました)等の要件が課せられ、実務的にはメリットは少ないものになっています。しかしながら、制度の新設という面を考えれば、相続税において事業承継を意識した本格的な措置を行うという姿勢がうかがわれますし、要件の整備と共に、今後も少しずつ広げられていく可能性はあると思われます。 2.特定同族会社株式等の特例制度の内容 新設された制度は、改正租税特別措置法69条の5(特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例)で新たに規定されています。 内容は、中小企業の経営者の相続開始に伴い、事業承継が相続等により取得した特定同族会社株式等については、相続税の課税価格の計算上、その株式等の価格を10億円以下の部分について10%減額する(つまり1億円を上限とします)というものです。 この特例の適用要件は、次のとおりです。 (1) 特定同族会社株式等 被相続人が相続開始直前に有していた、次の要件のすべてに該当する取引相場のない株式等で発行済株式数の3分の2に達するまでの部分に限る。 イ 被相続人および被相続人の親族並びに被相続人と特別の関係がある者が有していた各法人の株式の総数又は出資の総額が、発行済株式総数の2分の1超であること。 ロ その会社の発行済株式数の相続税評価額が20億円未満であること。 (2)相続人等の要件 イ 特定同族会社株式等を相続等により取得した者が親族であり、相続を開始の時に発行済株式総数の5%以上を有していたこと。 ロ その相続等をした者が、その会社の役員として経営に従事していること。 (3)価額の上限 対象となるものは、被相続人の有していた特定同族会社株式等のうち10億円以下の部分に限る。 (4)保有要件 特定同族会社株式等を相続した者が、申告期限までの引き続きそのすべてを有していること。 また、今回の改正の適用にあたっては、小規模宅地等の特例制度(措法69の4)との選択となっており、この特例を受けた場合は、小規模宅地等の特例の適用が受けられません。したがって、これらを比較検討する必要があります。 なお、この規定は2001年1月1日(上限拡充等の改正部分については2004年1月1日)以降に相続等により取得した特定同族会社株式等にかかる相続から適用されています。
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