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1.退職金規程は勝手に変更できる?

 この事件は、会社が退職金規程を従業員の同意なしに変更したことが問題になった事件です。それは、退職金規程変更後の就労期間について、退職金の算定基礎となる勤続年数に算入しないことと定義しました。規定変更後に退職された従業員が「この規定の変更は有効ではない。」として変更前の退職金規程の効力をもとめたものです。判決は従業員の勝訴でした。
 この判例のポイントは、退職金規程は就業規則としての性格を有するということです。従業員に対して「退職金算定の基礎となる勤続年数が規定変更後算入されなくなる。」という不利益変更を会社が一方的に課するものでした。それにもかかわらず、その代償となる労働条件を何も提供していませんでした。また、このような不利益変更を是認させるような特別の事情も会社には起こっていません。このような状況でしたので最高裁は「退職金規程の変更は合理的なものではない。」と判断しました。
(御国ハイヤー事件 最高裁第2小:昭和 オ 1173)

(ポイント)
「退職金の規程なんて。」と思われるかもしれませんがこのような判例が出ていますのでご注意ください。変更をする場合は支給水準が従業員にとって不利になるときは要注意です!皆様の会社ももう一度規定を見直しましょう。


2.退職金の支給を取締役会で決定?

 この会社は、就業規則の第4章に退職金規程を置いており、この規程に基づいて退職金を支給していました。そして、平成11年4月に退職金規程に「周囲の情勢および会社の経営状態に著しい変化が生じたときは別途取締役会において個別決定するものとする。」と条文を付け加える改正を行いました。
 平成12年3月にFさんが同社を退職しました。取締役会は同年決算期に無配となるなどして厳しい情勢と判断しました。そしてFさんに退職金を支給しないことを決めました。
このことに疑問を感じたFさんは裁判所に申し立て、司法の判断を仰ぐことを望みました。そして裁判所は以下のように判断しました。
 この問題のポイントは執業規則の改定の効力についてです。前の退職金規程によれば勤続年数と支給率に応じて一定の金額が決められていました。しかし、退職金の金額を取締役会の個別決定によって減額し、場合によっては、支給しないこともありうることから、就業規則の不利益変更に当たるという判断がくだされました。改定前の退職金規程により、Fさんに対し所定の退職金を支給しなければならないとなりました。
(ドラール退職金等請求事件 札幌地裁 平成12年 札幌地裁 ワ 1951)

(ポイント)
就業規則や諸規定に書いてあれば何でも許されると思っていたら大間違いです。皆様の会社の規則が本当に今の法律に適合するかどうかもう一度見直しされることをお勧めします!


3.懲戒解雇は退職金不支給?

 本件は、鉄道会社職員Gさんが2回にわたり痴漢行為を行って、その度に罰金刑に処せられていました。3回目の痴漢行為でついに車中で逮捕されました。鉄道会社の従業員でありながら、乗客に犯罪行為を行うとは会社の名誉、信用等を著しく傷つけたとして、懲戒解雇の処分を行いました。
 つかまったGさんは、懲戒の原因は私生活上の行為であり、また、「長年の功労を帳消しにする様なものではない。」と主張しました。そして、「退職金の不払いは無効である。」と訴えました。
 しかし、会社として信用を大きく損なわれたと主張しました。判決では退職金を支給しないのは有効であると判断しました。
 この判決に納得のいかないGさんは控訴しました。そして、次のような判決がでました。
「本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきである。その具体的割合については、上述のような本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Gさんの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去の会社における割合的な支給事情等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割であるとするのが相当である。」これにより退職金の3割が支給されました。
(小田急電鉄退職金請求事件 平成14年11月15日)

(ポイント)
従業員として、会社の信用が損なわれる行為は退職金の減額という状況になっても仕方ないと考えられます。ただ、何が起こったら対応するというのではなく、予防も含めて、指導を行うのが務めです。また、懲戒事由等については、就業規則などに明確に記載しましょう。


4.会社が倒産しても、退職金は従業員に支払う?

 Hさんが勤めていた空調会社は商工会議所と特定退職金共済契約を締結していました。この契約は、会社が商工会議所と退職金共済契約を結んでいて、会社が毎月掛金を支払い。その掛金を損金計上できるというものです。そして、社員の退職時に会社に代わって特定退職金共済団体から従業員に直接退職金の支給を行うという制度です。
 Hさんが勤めていた空調会社は残念ながら倒産してしまいました。そして、商工会議所がお金の運用を委託していた保険会社は、会社に退職金の元となるお金を支払いました。会社はそのお金で退職金を支払わず、債権者に返済をしました。
 Hさん達はこのことはおかしいと考えました。本来は「自分たちに支払われるべきではないのではないか」と思って裁判所に訴えました。そして、裁判所は次ような判断を下しました。「商工会議所が支払った退職金は、Hさん達に支払った退職金と認めることは出来ません!」つまり退職金の予定のお金を流用下に過ぎないとの判断でした。そして、Hさん達が訴えていた商工会議所の対する退職金の請求を容認いたしました。
(王子商工会議所事件 東京地裁 平成16年8月30日)

(ポイント)
退職金は、倒産しても支払う義務が会社に残ります。一般の債権者よりも優先して従業員に支払う義務があります。「退職金なんてまだ先のこと!」とお考えの社長が多いのですが、準備は怠らないようにしてください。




 

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