1.会社を買うメリット
(1)会社を買うメリット
「M&Aは時間を買うことである」とよく言われます。新規事業や関連事業を実際に立ち上げようとした場合、膨大な労力と時間、そしてうまく立ち上がらないかもしれないというリスクがあります。
企画立案、マーケットリサーチ、社員教育、ノウハウの蓄積、事務所の開設、人材採用、広告等を全てこなすには膨大な時間を必要とします。
また、変化が激しい時期ですので、新規事業が立ち上がったときは既にタイミングが遅れていたということも考えられます。その点、M&Aで企業を譲り受け新規事業に進出する場合、極めて短時間に立ち上げが実現できます。しかも、M&A直後から売上が見込めます。
さらに、M&Aによる事業展開は非常にリスクが少ないと言えます。自社で全く新しい事業を開始する場合、当然経営計画は立案しますが、計画通りの売上が上がる保証はありません。その点、M&Aなら既存の企業を譲り受ける訳ですから、過去の損益状況は全て分かっています。したがって、自分達が引き継げば、売上や経費がどうなるのかは新規開業と比べてはるかに正確に予測がつきます。
(2)ブランド、取引先などの無形資産を入手することもできる
企業や製品に対するブランドイメージや取引先、特許やノウハウ、技術などは一朝一夕に築き上げることはできません。それこそ5年、10年の時間がかかります。それらを一括して手に入れることができます。
(3)模のメリットや事業の多角化、強化が図れる
競争の激しい業界では同業者を買うことによって、規模の拡大が図れ、マーケットシェアを確保することができます。規模の拡大によって対外的な信用力が増すだけでなく、コストダウンも可能になり、大きく競争力が向上します。
また、自社のニーズにあった他業種の買収で事業の多角化を図ったり、自社の弱体部門の強化を図ることも可能になります。
このように買い手にとってM&Aのメリットは多岐にわたっています。何より大きなメリットは短い時間で新しい事業を始めることができることです。買い手にとってM&Aとは「リスクを避けながら時間と人材を買い、投資を効率化すること」と言い換えることができるでしょう。
2.業績が悪い会社が譲渡したい会社ではない
M&Aを実際に行う場合には、メリットだけでなくリスクについても十分検討し、判断しなければなりません。買い手にとって特に心配なのはM&Aした会社の帳簿に載っていない負債(簿外債務)や会社名義での連帯保証があるのではないか、M&Aで獲得した人材が流出しないか、従業員や取引先を円滑に継承できるのか、を心配される方もあるかも知れません。
また、秘密保持も重要なテーマになります。不用意に「あの会社は売りにでているそうだ」などといった噂が取引先や金融機関、あるいは従業員に広がると業績に大きな影響がでることは想像に難くありません。買い手に取っても噂が広がって信用を失った企業を買収してもその後の経営がうまくいかないことも考えられるのです。
(1)簿外債務
簿外債務とは帳簿や決算書に計上されていない負債のことです。資金繰りの悪化のために金融業者から借り入れを行ったが、正規の金融業者でないために決算書に計上されていなかった借入金、予測されていない退職金、会社として行っている連帯保証や脱税等が含まれます。いずれにしろ会社として支払わなければならないもので、それを知らずに会社を譲り受けると大変なことになります。
M&Aの契約では、簿外負債が発見されて損害が生じたときは、その損害を前オーナーが賠償するという契約を結びますが、何よりもM&Aの交渉途上でオーナーの人間性をみたり、また、黒字が続いている企業では、簿外負債の存在は少ないと思われます。
(2)社員の継承
中堅中小企業の社員には創業社長の人柄に惹かれて付いて来たというタイプの社員が多くいます。これらの社員の愛社心や創業者に対する思いを無視して、企業を譲り受けた後、自分流の経営を押し付けると有能な幹部社員が転職してしまったりする可能性があります。会社は結局、人で成り立っているものですから、有能な人材が流出するとノウハウや得意先もその人材といっしょに流出してしまい「空箱」を買ってしまう結果となります。社員の待遇についても、第2章で触れましたが、待遇は現状維持し、創業者と社員の心情や尊厳を十分に尊重して引き継ぎにあたれば、新しい経営者の下で一丸となって業務を遂行してくれます。
(3)M&A専門家の活用でリスクヘッジが可能
こうしたリスクの多くはM&A専門家の活用や、手続きをきちっと踏むことによって多くは回避できるものなのです。「M&Aに失敗した」という話をよくよく聞いてみると、売り手と買い手の当事者同士が直接交渉しているケースが多く見受けられます。
本来売り手と買い手という利害関係が正反対の立場同士が直接交渉するわけですから、綿密にリスクを検討し、厳格な手続きの元にM&Aを実行する必要があるはずなのですが、ほとんどの場合会社を売るのも買うのも初めてで、何が問題かわからず、どんなリスクがあるのかわからないまま、あいまいな形で話を進めてしまうケースが多いものです。また、当事者同士の気安さから、どうしても秘密保持の重要性に対して認識が甘くなりがちなのは言うまでもないことでしょう。
この点M&Aの専門会社を活用した場合は、専門家が間に入って、財務、法務、人事などのリスクを解決または可能な限りヘッジし、買い手にとって事前にトラブルの芽をつみM&Aのリスクを大幅に減らすことが可能になります。さらに第三者を通じて相手の会社を客観的に判断でき、自社の戦略が立てやすくなるというメリットがあります。
秘密保持に関しても、必ず双方から書面で秘密保持契約書を取った上で接触しているため、安心して交渉することができるのです。
M&A専門会社の有効な活用が、M&A成功の秘訣の1つといって過言ではないでしょう。
3.買ってよい会社と買っていけない会社
(1)同業者の場合は買いやすい
実際に会社を買うことを決めたとしても、はたして良い会社・良い売り手がみつかるか、本当に買っても大丈夫かどうか?ということは非常に難しい問題です。
では買っても良い会社とはどのような会社なのでしょうか。
答えはズバリ、「買い手にとって魅力のある会社」です。例えば、「同業種の譲渡企業」の場合は比較的決断がしやすいと言えます。
このケースでは、会社が赤字か黒字かもあまり問題とせずに買うことも多々見受けられます。同業種の会社を買収しようとする企業の目的は、たいていがシェアの拡大や他地域への進出というところにあります。この場合は買う側は同業種なのですでにその業界について熟知しており、買おうとしている会社の経営状態が多少悪くても、それを立て直すノウハウを持っているということが大きく、高いお金を出して黒字会社を買収するより、赤字会社を安く買って自分たちで立て直したほうがメリットがあるという戦略があるからです。
こうした考え方もあって、同業種の場合は、赤字でも比較的リスクを伴わずに買うことができます。ただし、同業種の場合、買い手は「売り手のもっている人材やノウハウ」にはあまり期待していないため、在庫、設備、営業権などに対する評価がシビアになりがちで、買収条件が異業種の場合よりもきびしくなってしまうこともあります。
(2)特徴を持った会社はお買い得
売り手が異業種の場合は、買い手は業界のことを熟知していないため、慎重になり検討も厳しくなりますが、異業種の会社を買収するときの最大のポイントは「特徴を持っている」ことです。
たとえ、業績の良い事業や賑わっている店舗を有していても、第三者が簡単に参入できるようなものであれば、それは非常に魅力に欠けるものになってしまいます。しかし、販売ネットワーク、権利、資格、技術、人材などほかにはない特徴を有していたり、新規展開が困難で時間やコスト等などの手間がかかるようなものであれば、必然的に買い手にとって魅力のあるメリットのある買収対象となるでしょう。
(3)業績が右肩上がりの会社は安全
買っても良い会社かどうかを判断するもう1つのポイントは、その会社の業績が右肩上がりか右肩下がりかという点にあります。これは、単に、損益が赤字か黒字かということを言っているのではありません。
もちろん、損益が黒字で業績も年々伸び、そかもマーケットもそれなりにあるという会社であれば買収のリスクは少なくなりますが、今の時点では赤字でも、徐々に改善されており、黒字になる方向が見えている、という右肩上がりの会社であれば、買収にそれほど大きなリスクはないと言えますし、逆に現在の時点で黒字を出していたとしても、収益と売上が年々、前年割れしているような右肩下がりの会社を買収することは非常にむずかしくなります。
そうした会社の場合は、会社の体質的に問題があるか、あるいはマーケットそのものが縮小しているかのどちらかだと考えられるからです。しかも、オーナー社長が自宅を担保に入れてまで必死に経営しているにもかかわらず、ジリジリと右肩下がりの下降線を描いている会社を特に異業種から参入した人間が立て直すのは非常に困難と言えます。このため、数年間にわたって右肩下がりの状態にある会社には、経営改善ビジョンがよほどきちんと立たない限り、買収するリスクが大きくなるといえるでしょう。
(4)「買いにくい会社」とは
買いたいと思っても手が出せないのは、前項の買える条件を満たしていないからですがそれ以外にも注意しなければならない点がいくつかあります。まずは、その業種のマーケットが沈滞していたり、過当競争に陥ったりする場合です。買い手としては「将来の利益のために会社を買収しよう」としていますので、業界自体に成長がなければ、買収には大きなリスクが伴うと言えるでしょう。また、一店舗経営の会社(家業)や100%下請けの会社を買収することもその営業形態から考えると買収には十分な注意が必要になります。また、財務内容に不明な点がある場合なども、買収しない方がいい企業になります。