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一口にM&Aといっても実際には多くの形態があり、M&Aの目的やそれぞれの企業の事情によって、どのような形で企業提携をするのが良いのかは様々です。
  広い意味では企業の提携のうち、資本の移動を伴うもの全般をM&Aであると位置づけることもできますが、ここでは通常いうM&Aについて、その種類と特徴をご説明することにしましょう。


1.もっとも多い 「株式譲渡」

  M&Aには資本金を売買する「株式譲渡(取得)」と資産を売買する「営業譲渡(譲受)」の2つの形態があります。
そして株式取得は誰と株式を売買するかによって、さらに「株式譲渡」と「新株引き受け」の2つの形態に分けることができます。
株式譲渡とは具体的にいうと株主が自社の株式を売却して、「会社ごと」経営権を買い手側に譲渡することです。
中堅中小企業ではオーナー(株主)と経営者が一体であることが多いこともあって、株式譲渡による経営権の譲渡は、中堅中小企業のM&Aでは最も多く用いられている形態です。
株式譲渡では株主の所有する株式を、買い手に譲渡するわけですから、M&Aの対価は当然株主に入ってくることになりますし、株式の譲渡益への課税は20%と他の形態と比べて税務上も有利になっています。
様々なM&Aの形態のうち、株主が直接M&Aの対価を受け取ることができるのは株式譲渡による方法しかありません。
また「会社ごと」譲渡するということは、経営責任のすべてを相手に継承してもらうわけですから、当然資産だけでなく会社の負債も買い手が会社ごと継承するということになります。
従って会社の債務の返済はもちろん、中堅中小企業のオーナー経営者によく見られる個人保証や個人担保提供も、買い手側が保証を解除したり、担保を差し替えたりするのが普通です。
もう1ついえば、会社を現在あるままで継承してもらうため、従業員もそのまま継承され、いわゆるM&Aにともないリストラされているという心配が少ないといえるかもしれません。
先に述べたように、一般に中堅中小企業のM&Aは拡大を目的にしているため、こうした不安は少ないのですが、株式譲渡の場合は特にその心配が少ないようです。

 一方、株式譲渡は買い手からすると企業全体を「会社ごと」手に入れる方法ということになりますが、どの程度の影響力があるかは取得する株式の比率によって異なってきます。
通常、相手の会社の経営権を取得するには発行済み株式の51%以上の株式を取得する必要があり、株主総会においてすべての議案を通そうと考えるなら3分の2以上の株式が必要です。おおざっぱにいえば、会社の経営権を取得するには51%以上、所有権を取得するには3分の2以上が必要だと考えるといいでしょう。
買い手から見て株式譲渡が他の方法に比べ、優れている点はなんといっても会社のヒト、モノ、カネといった経営資源や得意先、商標やブランド、さらに会社に蓄積されてきたノウハウなど無形の資産までスムーズに継承できる点にあります。
会社からみれば株式譲渡では単に株主が変わっただけですから、従業員の雇用、得意先との取引、営業免許、許認可といった会社の権利関係はそのまま継続されるわけです。
また、株式譲渡は、譲渡制限が付されている株式の譲渡の際に取締役会の承認が必要な点をのぞけばほとんど法的な制約がなく、取引当事者間の合意があれば手続きが簡単である点も特徴の1つです。


2.必要な部分だけを取得できる営業譲渡

営業譲渡とは、ある事業に関する「営業財産」を買い手に譲渡することをいいます。一見不動産など物品の売買によく似ているように思われますが、たとえば自動車部品をつくっている工場を売却するとき、単に工場の土地、建物を不動産売却するというだけでなく、機械、什器備品、従業員、取引先など自動車部品を作るための有機的なシステムそのものを1つの資産、(これを「営業」といいます)と考えて売却する方法が営業譲渡です。
また、資産だけでなく買掛金、支払手形、借入金といった負債も譲渡対象に含めることもできますし、営業権のような無形の資産も譲渡対象に含めることができます。
なお、営業譲渡で営業権を譲り受けたときは、買い手は資産に計上し、税務上5年間で均等償却することができます。
営業譲渡がよく使われるのは、1つの会社でいくつかの事業をやっていて、そのうち一部門を譲渡したいというときや、1つの事業であっても、10店舗もっているレストランのうち2店舗を売却したいといったケースでしょう。
営業譲渡の対価は譲渡企業に支払われますので、営業譲渡で得た資金を他の事業拡大に振り向けたり、財務体質強化にあてたりすることが可能になるわけです。
また、借入金が多い、営業に不要な資産を会社で多数所有しているなどの理由で株式譲渡が難しい企業が会社の全事業を営業譲渡するというケースもあります。
この場合は実質的に事業すべてを譲渡するわけですが、株式譲渡と異なるのは、営業譲渡ではM&Aの対価は会社に支払われるため、株主個人に対価を還元しようとした場合は、会社からの配当や会社清算といったステップを踏まなければならないことです。
一般的には営業譲渡の際の譲渡差益に対する法人税課税と併せて、株主手取額の面で株式譲渡に比べてかなり不利になるケースが多いと思います。
買い手側にとっても営業譲渡は非常に有効な手段です。時には株式譲渡よりも適しているケースもあるでしょう。というのは、営業譲渡では取得する資産、負債を売り手、買い手の話し合いによって自由に決めることができるからです。

 例えば譲渡側の企業が事業に関係のない不動産を多数持っていたため、株式譲渡代金が高くなってしまう場合などは、営業譲渡の方法をとることによって、必要な資産や授業員、棚卸資産や取引先などを選んで譲り受けることができますし、場合によっては営業継続に必要な棚卸資産や売掛金だけを継承して、工場や機械などは賃貸するといったことも可能です。
また、売り手企業の経理が不透明で帳簿にのっていない負債(簿外負債)や偶発債務などがでてくる危惧がある場合などは、営業譲渡は強力なリスクヘッジの手段となります。
株式譲渡では、会社ごとにすべての権利関係を継承してしまいますが、営業譲渡では売り手の法人はそのまま残るので、原則として簿外負債などのリスクは売り手が負担したままとなるためです。(売り手の商号や商標を買い手が続用した場合など、債務が及ぶ危険があるケースもないわけではありませんが)。
このような危険性がある会社のM&Aでは、株式譲渡ではなく営業譲渡に方法をとることで、事前にリスクを回避することができるわけです。

 一方、営業譲渡には不利な点も少なくありません。その最たるものとしては個々の営業資産について移転手続きを行わなければならないため、手続きが非常に煩雑になる点があげられます。例えば、土地や建物であれば所有権移転登記が必要になりますし、銀行口座などの変更、売掛債権などについての得意先への通知、果ては電話や電気の名義変更に至るまで個々に手続きが必要なのです。また、買掛金や借入金にような債務を継承する場合は、債権者への通知や承認が必要になってきます。
必要な移転手続きはモノだけではありません。多くの場合、従業員の転籍も必要になりますが、形の上では売り手側企業を退職し、買い手企業が新たに雇用する形になるため、退職時に退職金を支給して一度清算するか、あるいは買い手企業が勤続年数を引き継ぐのかなど、あらかじめ決めておかなければなりません。
また、会社に与えられている営業上の許認可などは引き継げないこともあるので注意が必要でしょう。

   いずれにせよ株式譲渡と違い営業譲渡では事業を営む法人自体が変わるため、当然のごとく社員や取引先を継承できない可能性が高くなるという点に注意が必要です。



 

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