折衝を行う際に大切なことは、その前に調査で指摘された内容をきちんと分けておくことです。これを大まかに「期ズレ」「その年限り」「永久」の3つに分類できます。 「期ズレ」とは、本来ならば今期に計上されるべきものが、翌期に計上されたもの、翌期認容で、翌期には税額が戻ってきます。 「その年限り」とは、交際費等、単年度会計のもの。その期は痛みを伴いますが、翌期には出てきません。 「永久」とは、指摘を受けて認めてしまえば、永久にそれを続けなければならなくなるもの。これは一番注意しなければなりません。他の2つと同じレベルで考えると大変なことになります。 こんな例があります。ある社長が「社長の奥さんの給料が30万円では高い。10万円が妥当ではないか?」と指摘を受けました。これを認めてしまえば永久に10万円にしなければならなくなります。それまで30万円の給料で節税になっていたものが、20万円分の節税が効かなくなってしまいます。これが10年、20年になると、200万円、400万円の税額の違いが出てきてしまうわけです。 ですからまず、指摘を受けたらどういう指摘なのかを考えます。どのタイプに属するか、そして税額から考えて、どのタイプで折衝するのが一番得なのか、よく検討することが大切です。
折衝において大切なことは、修正申告も考慮に入れるということです。 修正内容は、「5年遡って修正」「3年遡って修正」「1年遡って修正」「指導」「不問」の5つのタイプに分けられます。しかし実際には、5年遡る事は稀で、3年遡ることがほとんどです。「指導」というのは、翌期から指導のことで、「不問」は修正しなくてもよいということです。 また、修正内容に納得できなければ、交渉しだいで「3年遡って修正」が「1年遡って修正」になる場合があります。 調査官から指摘を受けた場合、「期ズレ」「その年限り」「永久」の3つ指摘内容のタイプと、この5つの修正内容のタイプをミックスしながら折衝にあたることが重要となります。
調査の結果、申告に間違いがあると判明したら、税務署は会社に「修正申告をしてください」と勧めてきます。 納得できるものであれば修正申告に応じるには納税者の義務ですが、納得できない時には、更正の処理をしてもらうことが必要となります。 ところが、一般の税務署管轄の場合は、ほとんど更正をすることはありません。 たとえば社長の奥さん給料が高いかどうかを判定するケースでは、税務署が「30万円より10万円が妥当だ」と思っても、税務署長が「明らかに30万円の給料は高い」といいきれるものではありません。こういった微妙な金額の問題に関しては、税務署はなかなか更正できないものです。 ですから、調査結果に不満で、どうしても納得できない場合は、修正申告書を提出せず、税務署と折衝しましょう。 修正申告書の提出は、異議申立ての権利を自ら放棄することに他なりません。ここが正念場と考えて、あくまで主張を貫かれることをお勧めします。
納税者が更正・決定などの処分に不服であれば、税務署長または国税局長に異議申立てができます。異議申立ての処分に対しても不服があれば、国税不服審判所に対して審査請求をすることができます。 有名な例は海外旅行です。昔は、社員旅行で国内に行くと福利厚生費で、海外だとみなし給与というのが、税務署・国税局の内部通達でした。 ところが、台北より北海道のほうが旅費が高いのに、台北旅行を福利厚生費として認めないのはおかしいのではないかと、ある会社が裁判を起こしたのです。 結果的にはこの異議申立てが認められ、国が負けました。これ以降は、社員旅行で海外に行った場合でも、社員50%以上が参加し、4泊5日で1人あたりの費用が10万円くらいならば、福利厚生費として認められるようになりました。このように、更正・決定を受けても、勝てる可能性は十分にあるのです。 次に、調査の管轄ですが、資本金1億円以上の会社は国税局の管轄、それ以外の会社は税務署の管轄になります。 国税局は更正・決定を頻繁に出してきますが、税務署はほとんど出してきません。というのは、国税局が管轄する会社は大手が多いからです。大手の会社は、修正申告のためにわざわざ稟議書に社長の判をもらうよりは、更正・決定を受けたほうが早いし楽だと考えているからです。つまり、国税局が更正・決定を出してもほとんどが裁判にはならないのです。 税務署が管轄する会社は、そんなことはありません。税務署は裁判を避けるために、ほとんどが修正申告を勧めてきます。ですから、務署管轄の会社は「納得がいかない。うちは裁判やるぞ」というと、交渉がうまくいく場合があります。 しかし、税務署管轄の場合でも、更正・決定をあえてやる場合があります。1つの更正・決定の内容が明らかに裁判に勝てる場合です。もう1つはグレーゾーンのものを、裁判で確定してもらいたい場合です。 また、同じ業界内で同じ項目について、あの会社では通ったのにうちでは否認された、あの会社では否認されたけれどうちでは通った、という問題が出てくることがあります。 こういった問題は、項目で考える前に、調査時の状況で考えなければなりません。調査時の状況には、次の3つがあります。 @ 調査のときにチェックされなかった。 A チェックしたけれどわからなかった。 B チェックした結果、通った。 @とAは通ったことにはならないのです。ですから、たとえ同じ項目といえども、調査時の状況によって通るものと通らないものが出てくるのです。 それから、更正を受けている場合は明らかに否認してきます。また、いろいろな交渉ごとになかで、「これを認めてくれるのなら、こっちは納得できないけど修正します」といったものも、否認されたことになるのです。
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