この章では、税務調査を受ける前に、特に綿密な打合せが必要な項目を取り上げて説明することにします。 どの項目も調査で必ず聞かれるものばかりなので、関係書類の整理や確認はもちろん、関係会社との統一した見解などもきちんとしておかなければなりません。でないと調査官に指摘されることになります。 つまり、これらの項目がクリアになってはじめて、税務調査という「関所」を通過することができるといっても過言でないのです。
前回の調査で否認された項目は、税歴表に載ってきます。当然、税歴表に書かれていることは聞かれることになりますので、私は顧客先に、前回どのような調査が行われたかをメモに書いて渡すようにしています。 ですから、前回否認された項目については、必ずチェックしておきましょう。もしそれが改善されていない場合は、悪意があると思われて重加算税が課せられることになりますので、きちんとしておくようにしてください。
貸倒案件の処理については額にもよりますが、会計事務所を間に入れて、調査官と十分に打ち合わせをしておかなければなりません。 最近では銀行でも貸倒が多いので、調査も世情を反映したものとなりつつあります。「銀行の貸倒は認めて、うちはなぜ認めてくれないんだ」ということになるからです。ですから、債権放棄の通知書を出す分については、だいたい貸倒を認めてくれるものです。認められれば、貸倒の半分近くが助かることになります。 ただ、債権を放棄する場合、安易な貸倒は認められません。債権を回収する努力をした軌跡を残していること、相手方の債権超過の状態が相当期間経過していること、などがポイントになってきますので、注意してください。
それぞれの業界ならではの特性から起こる問題があります。たとえば以前、テレビ局では交通費が大きな問題になりました。接待するためにタクシーやハイヤーを使った費用を、交通費として落としていたのです。調査官が調べたところ、あるテレビ局は某区内にあるのに、出発点や到着点が全部銀座になっていたということからわかってしまったのです。 この場合、接待のためにタクシーやハイヤーを使ったわけですから、厳密にいえば交際費になるのです。科目は交通費なのですが、税務的には交際費になります。 税務調査でこういうことが1回見つかると、同業の調査は全部行われます。ですから、同業との情報交換が必要になってくるのはいうまでもありません。 最近ではタレントの経営する会社が問題になっていました。どういうことかといいますと、タレントでもあり、会社の経営者でもあるという立場を利用して、タレントとしての収入を会社の収入にしていたり、タレントとしての自分と、会社の経営者としての自分との取引で、実態と乖離した異常な金額を動かしていたりしたのです。
グループ法人のなかには、決算期になると、グループ内で伝票を微妙に調整しながら裏金を作って処理する会社もあります。こういった問題を防ぐためにも国税局は、全国に散らばったグループ法人をある程度まとめて調査を行っています。 また、親会社では調査が行われれば、子会社に情報を流すといったようなことが、グループ内ではよく行われます。これは、親会社で大きな問題があると、子会社のほうも調査されることがあるからです。 ですから、グループ法人のこれからの戦略として、たとえばグループ内で問題になっている事柄については、統一した考え方を持って調査に対応していくべきだと思います。
海外取引やコンピュータを利用した巧妙な脱税事件も増えてきました。海外の金融機関の口座に脱税をした資金を隠したり、売上データをコンピュータを使って削除したりするのです。 こういった問題を解決するため、査察部内に、インターネット等コンピュータを使った取引を調査する「査察開発課」と、海外取引等の脱税に対応する「査察国際課」が新設されたほどです。
参考資料:大企業調査当局の方針 国税局(調査課)は、管轄している資本金1億円以上の大企業に対する当面の調査・事務運営方針を明らかにしています。その重点事項は以下のとおりです。 〔大口・悪質な不正計算等の把握および広域化への対応〕 法人税および消費税の調査等を通じて課税上問題があると認められる取引を的確に把握し、その解明に努めるとともに、調査の際には、大口・悪質な不正計算等の把握に重点を置いた、深度のある調査を実施する。 また、企業の取引活動の広域化や複雑化に対応するため、関係する国税局や税務署と連携した調査を実施する。 〔国際化への対応〕 海外取引を利用した脱税・租税回避も想定されることから、租税条約に基づく情報交換の活用等により、不正所得の発見に重点を置いた調査を実施する。また、国際調査専門官等を中心に、取引の実態解明に努めるなど、海外取引調査の一層の充実を図る。 移転価格調査については、取引の実態を把握し、問題点があると認められる取引を行っている法人に対しては、国際調査専門官を中心に移転価格に的を絞った深度のある調査を実施する。また。納税者の予測可能性を確保する観点から、納税者が独立企業間価格の算定方法等を事前に申し出、国税局がこれに確認を与えるという事前確認制度の積極的な活用を図る。
|| トップ || M&A || 新会社法 || 会計参与 || 事業承継 || 労務管理 || 税務調査 || 経費削減 || プロフィール || お問合せ || 個人情報保護方針 ||