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 この章では、最近、どのようなことが税務調査で否認されたのか、事例とその内容、否認事由をあげてみました。
 会社としては正しく申告したつもりでも、間違って認識していたために否認される場合も多いのです。下手をすれば思わぬところで重加算税を課せられることになりかねませんので、まずは課税について正しく認識することが必要です。
 また、調査官が絶対に正しいというわけではありません。見解の相違から指摘してくることもあるのです。調査官が修正を勧めたからといって、必ずしもそれに応じる必要はないのです。
 指摘に対して納得がいかなければ、調査官と交渉し、それでも納得ができなければ、異議申立てをして正しい税額を決めてもらえばいいのです。
 実際、この章であげた否認事例のなかにも、交渉の余地があるのではないかと思われるものも含まれています。ですから、これまでの章で述べてきたポイントを踏まえて、各事例について考えてくださればいいと思います。 


1.社長の妻に対して支給した賞与について全額否認された

〈内 容〉
社長の妻は役員ではなく、株も所有していないが、社長は100%株を保有していた。当社は社員5名で、社長の妻は専ら、資金繰りと採用・給与等の仕事を任されていた。

〈否認理由〉
社長の妻は特定株主に該当し、会社の経営に従事している。したがって、みなし役員となり、賞与は損金不算入。


2.親会社からの出向社員の賞与負担金が全額否認された

〈内 容〉
当社は親会社の使用人(一般社員)を常務として受け入れているが、その者は親会社から直接、賞与の支給を受けているので、当社は親会社にその分の負担金として同額を支払い、損金算入していた。

〈否認理由〉
親会社では使用人であっても出向先では常務であり、その賞与の負担は役員賞与の損金不算入に該当する。

〈ひとこと〉
たとえば、親会社で使用人、子会社で使用人兼務役員であれば、使用人として適正な部分だけは認められます。
出向の問題というのは、税務署が得意中の得意としているところです。大体の会社が間違えているものです。また、転籍の取扱いや退職金の積立て方等がどうなっているか、しっかりと整理しておいたほうがいいと思います。


3.ゴルフ会員権の年会費を会費として処理していたが、交際費として認定された

〈内 容〉
ゴルフ会員権は法人名義である。入会金は資産計上してある。

〈否認理由〉
通達通り。なお、ロッカー使用料も交際費となる。


4.ロータリークラブの経常的会費を会費として処理していたが、交際費として認定された

〈否認理由〉
 通達通り。ロータリークラブの入会金や経常的会費の大半は会合時の飲食代に使われており、他会員との懇親を深めるのが主目的になっているので、交際費とする。


5.社名入りテレホンカードの作成費用450万円が交際費として認定された

〈内 容〉
 当社の社名と商品を刷り込んだテレホンカードを3枚1組(原価4,500円程度)として得意先に配布した。配布先のリストは作成していない。

〈否認理由〉
@配布先が不用なので、1カ所に何組も渡った可能性があり、不特定多数のものに対する広告宣伝物品の性格を持っていない。
A 1組当たり4,500円のテレホンカードは少額広告宣伝物品に該当しない。 国税庁ではだいたい1,000円程度を目安としている。


6.賃貸ビルに耐震設計を行った費用を修繕費として一括損金算入したが、減価償却資産との認定を受け、修繕費が否認された

〈内 容〉 
 当社はコンピュータを数多く所有しており地震により倒れたりした場合、多額の損金を被るためコンピュータの下に地震があった場合でもその揺れを緩和する耐震設備を埋め込んだ。費用は1,000万円かかったが、この支出により耐用年数の延長や価格の増加をもたらすものではなく、また、耐震設備の普及という国策にも合致することから、資本的支出でなく修繕費として処理した。

〈否認理由〉
 
本支出は固定資産の修理、改良等の目的で支出したものではなく、耐震設備という新たな資産の取得に該当するため、修繕費という考え方は該当しない。また、耐震設備の普及は国の推し進めることであるが、一括損金算入という通達はなく、気持ちはよくわかるが、資産計上が妥当である。


7.不動産取得税の計上時期が早いとのことで全額否認された。

〈内 容〉
 当社は不動産賃貸業者であるが、当期のはじめに賃貸ビルを取得し、賃貸中であった。決算期末になっても不動産取得税の納税通知がこないため、役所に確認してもらったところ、固定資産台帳に登録されているが、手続き上、賦課決定通知書の発送が実施されていないとのことであった。そのため、課税標準の価格を教えてもらい、自社で税率を乗じて税額を計算し、租税公課として未払計上した。

〈否認理由〉
 
不動産取得税は賦課課税方式により税額が決定される税目であり、この種の税目については、課税標準および税額を記載した賦課決定通知書を発送して決定することとしている。よって、本件は未だ決定されているといえない状態なので、損金計上は時期尚早である。  


8.会社が役員を被保険者として保険を掛けて全額損金としていたが、その一部が否認された

〈内 容〉
 当社は、社長(57歳)を被保険者とし、死亡保険金受取人を法人とする定期保険(保険期間25年)に加入し、毎月3万円の支払保険料を損金としていた。なお、保険期間中の支払保険料の額および死亡保険の額は変わらない。

〈否認理由〉
法人が契約者となって、役員や従業員を被保険者とする定期保険に加入し、保険料を支払い、死亡保険金の受取人を契約者たる法人としている場合には、原則は損金となる。ただし、その保険が、@長期平準定期保険やA逓増定期保険に該当する場合には、たとえ死亡保険金の受取人が契約者である法人であったとしても、支払保険料の一部を資産に計上する必要がある。
@ 被保険者の年齢+保険期間×2>105・・・1/2を資産計上
A 被保険者の年齢+保険期間×2>90・・・・1/2を資産計上

〈ひとこと〉
保険はすべて経費になるものでもなく、すべて資産計上するものでもないのです。
私ども監査で、今まで税理士さんでやっている会社に行って指導していますが、保険の処理はほとんど違っていました。ですから、どういう処理をしなければならないものか、もう一度確認されたほうがいいかと思います。


9.資産計上が必要な保険に加入している会社で、契約に基づき支払われる配当金を積立金から控除し、その全部が否認された

〈内 容〉
 当社は終身保険に加入し、その毎月の支払保険料である5万円を資産計上していた。また、その契約に基づいて毎年契約者配当金を受領していたが、その金額を資産計上していた積立金から直接控除した。

〈否認理由〉
法人が契約している終身保険に関しては、その契約に係わる保険料がすべて資産計上されることのなる。しかし、その契約により支払われる契約者配当金は、雑収入として収益とする必要がある。

〈ひとこと〉
こういう保険はほとんどの場合、配当を計上していないと否認されることになります。


10.非常勤役員に対して支払われていた役員報酬15万円が一部否認された。

(内 容〉
 当社は、役員(非常勤)に対し、月額15万円の役員報酬を支払っていた。この役員は、実質的には当社の主たる会議に参加していたが、経営上の主たる判断は特に行っていなかった。

〈否認理由〉
この役員は確かに主たる会議に参加したとして議事録に捺印などはあるが、本人の行った業務などの記録が何もなく、実質的に何も行っておらず、15万円の役員報酬が過大とされ、10万円に引き下げられた。



 

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